歯科医療の変化・進化(インプラント編)

この30年間で歯科で一番広まったものがインプラント(人工歯根)治療でしょう。私が学生のころに広まり始めた治療で、歯の抜けた顎骨に穴をあけてそこに人口の歯根を植えてそこに歯を付ける治療です。

現在行われているインプラントはメーカーこそ無数にありますが、すべてチタン製のシリンダータイプのもので、骨と直接結合することによって、天然歯と同様の咬む力を発揮します。

このタイプのインプラントが生まれる前にも、骨に溝を掘って刺すブレードタイプや骨に乗せ骨膜で固定する骨膜下インプラントなどもありましたが、長期の良好な予後は得られず、広まりませんでした。

チタンのシリンダータイプのインプラントが広まり始めた35年前は、より良い素材はないのかと大手の企業が得意な素材を用いてシリンダータイプのインプラントを開発し臨床応用しましたが、うまくいかず数年で撤退し、チタンインプラント(人工骨の材料であるアパタイトをコーティングしたものも含む)のみ、生き残り広まりました。

インプラントはこのような経過で発展してきたので、現在のチタンシリンダータイプのものも、最初は多くの歯科医の信用されず、広まりませんでした。しかし、10年以上経過して、成功率が非常に高いことが認知されてからは、いっきに広まりました。

骨を削る治療なので全身的な疾患をお持ちの方には、行えない場合はありますが、条件さえよければ、多くのケースで最善の治療になります。

歯科医療の変化・進化(歯周病編)

歯周病の治療は私の中ではこの35年で比較的変化の少ない印象があります。

歯周病によって溶けてしまった骨を再生させる治療がいくつか開発されましたが、適応範囲や骨の再生量があまり多くないことを考えれば、劇的な進歩とは言いにくいし、一般の開業医であまり行われていない現実があります。

そんな中で、治療法ではないのですが、考え方の変化として定期的なメインテナンスが行われるようになりました。メインテナンスとは歯垢歯石などの除去を歯科医院で行ってもらうことです。

歯周病は多くの場合歯と歯肉の境目の歯垢の残りが原因で生じ、治療の第1歩は正しい歯ブラシの仕方を身に着けることです。その後。歯石除去・歯肉の手術などを行い歯の根と歯肉がはがれて生じる隙間(歯周ポケット)を無くすことが治療の終着点・治癒と考えられています。

歯は成人で通常28から32本ありますが、すべての歯の歯周病を治癒させることは困難ですし、たとえ治癒しても油断するとすぐ再発します。

以前は治癒したら治療は終了、治癒できない部位は病態が進行すれば抜歯するとして治療終了となっていました。そのため一度治癒した人でも数年が再発して来院することがありました。

この20年ぐらいはメインテナンスという考えが健康保険にも取り入れられ、治癒した部位の再発防止・治癒しなかった部位の歯周病の進行の鈍化の効果があり、結果的に歯周病にり患した歯の長期保存が可能になってきています。

継続的に1~3か月に一度の定期的な通院が必要になりますが、日常の正しい歯ブラシが出来ている人にはとても有効ですし、多少歯ブラシの仕方に不備がある人でも一定の効果があり、統計学的なエビデンスもあります。

歯科医療の変化・進化(保存修復編)

保存修復とは歯髄(歯の神経)に到達していない虫歯の治療のことを示します。

この35年でセラミック系の材料の進化により、従来金属で修復されていたものが審美的に修復できるようになりました。ただ、これらは保険外治療になり、多くの歯にむし歯があると治療費が高額になる場合があります。

保険給付内の審美的な治療としてはコンポジットレジン(CR)修復があります。CR治療は40年以上昔からある治療で広範囲な大きなむし歯には不向きですが、ドラスティックな進化はないのですが、接着力・強度などが少しずつ向上し、適応できる範囲も広がり、母校の東京医科歯科大学では、すべての修復をCRで行っていると聞いたことがあります。

歯ぎしりの多い方や硬いものを嗜好する方には不向きですが、当院でもかなり大きなむし歯でも第1選択として用いることが多いです。

歯科医療の変化・進化(補綴クラウン・ブリッジ編)

クラウンは、歯が虫歯や破折によって大きく崩壊してしまったときに、人工の冠で補う治療法です。ブリッジは歯が抜けたところの両隣の歯に欠損歯と一体化したクラウンを被せる固定式の入れ歯になります。

35年前は金属を使った冠しかなく、審美的に金属が見えては具合の悪い箇所には金属の上に樹脂を張り付けたり、磁器を焼き付けたりして天然の歯と同じような色調にしたものが用いられていました。専門用語では硬質レジン前装冠・陶材焼き付け冠(メタルボンド)と呼ばれているものです。

メタルボンドは上手な術者と技工士さんが施術すれば、あたかも本物のように見える優れた治療ですが、まさに職人芸でそれぞれの技量による差が激しくあり、またどんなに上手にやっても、20年ぐらいすると生え際に内部の金属が見えるブラックラインが出てきてしまい、審美的にやり直す必要が出てきてしまいます。

それらの欠点を払しょくするために、この35年間の間に出来たものジルコニアやリチウムガラスなどを用いたオールセラミック治療がです。これらは、セラミックの強度・成型技術が上がったことによって、可能になったものです。術者・技工士のの技量による差がなくなったわけではありませんが、メタルボンドほど差が出にくくなっており、金属を使っていないのでブラックラインも出ません。

保険適応になっているものでも、硬質レジン単体から削りだして作る、CAD/CAM冠は従来の金属冠には強度ではまだ及びませんが、安価で審美的な治療と評価できます。

入れ歯・クラウン・ブリッジなど補綴の進化をみると、歯科医の技術の進化ではなく、テクノロジーの進化であることを痛感します

歯科治療の進化・変化(補綴 入れ歯編)

補綴治療とは歯が抜けてしまったところに人工の歯を補う治療で、入れ歯・ブリッジ・インプラントなどがこれに当たります。抜けるまで進行しなくても虫歯などで歯冠(歯肉から出ている部位)が崩壊してしまった歯に冠を被せる治療も補綴の一部です。

歯科医になって35年、入れ歯の分野でも大きな進化がありました。入れ歯とは取り外し式のものですべての歯が抜けた場合に入れる総入れ歯と、一部の歯が抜けた場合に入れる部分入れ歯があります。残念ながら総入れ歯の分野ではあまり大きな変化はありませんでした。

部分入れ歯の分野で、新しく取り入れられたものがノンクラスプ入れ歯です。クラスプとは部分入れ歯を残っている歯に掛けるための金属のワイヤーで、口をあけると見えてしまい多くの方が対人的に気にしていました。これを用いないノンクラスプ入れ歯は審美性が従来の入れ歯に比べ格段に向上しました。ノンクラスプ入れ歯は金属ワイヤーの代わりに歯肉と同化する樹脂を用いて残りの歯に掛ける入れ歯で、構造的には従来の入れ歯と同じですので、簡単で比較的安価に装着できるので画期的と言えるでしょう。

以前からクラスプを用いない入れ歯として、アタッチメント入れ歯と呼ばれる残っている歯に特殊な装置を組み込む審美的な入れ歯もあるのですが、高価で複雑なものが多いことが欠点でした。

アタッチント入れ歯の中で簡便で比較的安価なものとしてこの35年で普及したものとして磁性アタッチメントがあります。これは文字通り磁石を用い残っている歯に入れ歯を掛けるもので、残りの歯の状態が悪くノンクラスプ入れ歯が用いられない場合などには審美的でとても有用です。